「信州の建築家とつくる家」をご覧になった方から御相談を受けました。レストランを計画中で、作品の印象もさることながら、プロフィール欄に「趣味:料理」と書いてあるのが目に留まったようです。
この頃「スローフード」という言葉を耳にしますが、私の小さい頃は現在と食品の流通形態が違いますから、多くの家が季節の旬のものを家庭で調理した「スローフード」が毎日の食卓でした。私の家も両親と食べ盛りの子供4人のおかずが大皿に盛られ、皆で食卓を囲みました。子供たちもごく自然に料理を手伝うようになり、料理は趣味というよりも、生活の一部として当然のたしなみでした。
気づいたら弟は有名レストランのシェフになり、弟との会話の中で、料理と建築に共通点が多いことが話題になりました。
料理も建築も生活の一部ですが気の遣い方次第で、不愉快にもなりますし、心地よい料理や建築は芸術の域に達するものもあります。
料理も建築も創る人の個性もありますが、食べたり住んだりする方がいて、相手に喜んでいただけることが大前提です。
建築は、周囲の環境、時代の雰囲気、空間の組み立て、素材や仕上げの取り合わせ、工法や表現の選択、等を基に建築を形づくっていきます。料理も同じく、食事のシュチュエーション、メニュー全体の組み立て、素材と素材の組み合わせ、調理の手法、全てに頭をめぐらし技をふるいます。
料理では、丁寧な下ごしらえも大切ですが、火加減や塩梅の一瞬の判断や勘が料理を決めます。建築でも、緻密な設計図の検討と同時に、建設現場でのひらめきや判断が建物の出来を左右します。
そんな共通点が多いせいでしょうか、料理好きな建築家が多くいます。
多くの共通点がある一方で、一番の相違点は、料理は「そのとき」が全てですが、建築は長く残ります。
料理は、「そのとき」に一番ふさわしい料理が最高の料理ですが、建築は長く残るので勢いだけで考える訳にはいきません。
建築は、将来の姿を想像することも必要ですし、一方で、瞬時のインスピレーションも大切です。
長く残るのは、喜ぶべきことですが、一番むづかしいところです。