建築という物

自動車は各メーカーがデザイン・設計し、色々な部品が自動車工場に集められ、それを工場で組み立て、厳格な品質管理を経た上で工場から完成品として出荷されます。製品の品質はメーカーが保証し、我々は消費者として自動車を購入します。

現在、住宅に限れば大多数がハウスメーカーによる量産住宅です。彼らは住宅を「販売」し建築のことを「商品」と呼びます。建物を他の物と同じように、商品として気軽に手に入れる物としてイメージ付けようとしています。メーカーや商品という言葉の裏には、「厳格な品質管理に裏づけされた確かな製品」のイメージが見えがくれしますが、建物は他の「物」と違って完成した物が届けられるのではありません。建物は、現場で基礎を造り、柱・壁・屋根・サッシュ・設備機器・仕上げ材・何千何万もの部材を色々な職人・専門職の手によって作り上げていきます。建築は工事現場での膨大なローテクノロジーの集積で、建物の品質は工事現場を如何にコントロールできるかで決まります。ハウスメーカーは、自動車メーカーのようなmaker=製造者ではなく、住宅の設計施工会社です。
メーカー、商品、購入という言葉によって、建築は現場でつくる物ではなく、気軽に買うものだという誤った考えを広めた、ハウスメーカーの態度には問題があります。
更には、社会に対して建物の責任を持つのは、ハウスメーカーではなく、文字通り「建築主」です。
これが誤解されるのも、ハウスメーカーの商品を販売するという態度と、過剰なサービスによって、建築主の主体性を奪ってしまった結果です。
「私は欠陥住宅を買わされた」と言うフレーズを耳にしますが、この態度は間違いで、「私の不注意で欠陥住宅をつくってしまった」が正しく、建築主は客体ではなく主体です。建物は、建築主と建設会社が設計図をもとに工事契約して、建物を建設します。建物は、完成品を購入するのではなく、建築主が住宅建設事業出資者(プロデューサー)となり、建設会社が工事を担当して、両者の協働によってつくられます。建築主は、消費者として住宅を手に入れるのではなく、住宅事業のプロデューサーとして、社会ストックとなるきちんとした建物をつくる立場にあります。

建築は、買う物では無く、建築主がつくる物です。とはいえ、建築主は、きちんとした建築をつくる知識・経験・勘・ノウハウを持ち合わせていません。そこで、建築の専門家として建築主のパートナーとなるのが、我々建築家の役割です。