高度成長期やバブルの時代を経て、自然との付き合い方が見直され、新しい付き合いが模索されています。
食の分野では、有機農法・地産地消など、地に足の着いた「食のエコロジー」が実践されています。
特に「安くて新鮮でおいしい」地元の旬の野菜は、輸入食材に対しても十分に高いコストパフォーマンスを持ち、スーパーマーケットでも地元の野菜コーナーは魅力的です。消費者と流通と生産者が手を結んだ「食」をテーマにしたエコロジーです。
昔から「四里四方を食らふ」という言葉がありますが、「食のエコロジー」には「地域」という視点が大切です。
建築でも、「地元の木材で家を造ろう」と唱え、長野県では、県産の木を使った家づくりに補助金を出し県産材を奨励しています。
確かに、農村部で裏山の木を活用した建築は、「四里四方を食らふ」に通じるところもあり、里山整備は地域の環境にとって大切です。
輸送による環境負荷が少ない地域木材活用は環境負荷を低減しますが、県産材の量は限られていますし、北米・北欧でも循環型環境に配慮した計画的な林業は日本以上に研究されており、北米・北欧材を使うことが間違っているとは言えません。
それでは、もっと根源的で普遍的な「建築のエコロジー」は何でしょうか?
それは、長く使われる建築を目指すことです。「建築のエコロジー」には、「時間・永続性」の視点が大切です。
木材・鉄筋コンクリート・鉄・アルミ・ガラス・プラスチック、どんな材料を使うにしろ、建築材料は地球を蝕んでつくられます。材料だけでなく、輸送・作業に伴う燃料の消費・廃材の処理を考えれば、スクラップ&ビルドの建設行為は明らかに自然を蝕んでいます。
ハウスメーカーの平均的な木造住宅の建替えサイクル15年~20年を、60年に伸ばせば単純にそれだけで地球に対する負荷は、1/4~1/3に軽減できます。どんなに工夫しても、同じ規模の建物を1/3の環境負荷で建設することは不可能でしょう。
「環境に優しい建築」「環境をはぐくむ建築」などは、建築をつくる側のイメージ戦略であり、建設工事が環境に良いことはありません。
出来るだけ建物を長く使って、建設工事を減らすことが、建築をテーマにしたエコロジーです。
構造や仕上げなど、物理的な建物の寿命を60年にすることは、むづかしい事ではありません。15年~20年で建物が建替えられてしまうのは、物理的な理由ではなく、建物が使いづらくなり間取りを転換できなかったり、デザインに飽きてしまうからです。
長く使われる建築に必要なのは、間取りを変えながらも使われる続ける建物の骨格と、飽きることの無いデザインです。
60年という時間を考えてみると、私が40才で建てた自宅が、60年経つと、私は100才、私の子供が60代、次の世代は30代で、そこには、小さな子供が居るに違いありません。私の父母から数えると、5世代にわたる人が生活し、2世帯住宅ならぬ 「5世代住宅」です。
60年スパンの家族のシナリオを描くことは不可能ですから、予測不能な将来を想像しながら「間取り」を考えることも無意味です。
必要なのは、色々な「間取り」を包容できるおおらかな空間で、建築は「シェルター」にすぎません。
使い続けたいと思える「魅力的なシェルター」であること、即ち、丈夫で包容力があり美しい建築であることが大切です。