松本衣デザイン専門学校は、その前身の青葉洋裁研究所(1937~)から数えると、75年の歴史を持つ服飾デザインを中心とした専門学校です。学校創立より埋橋・深志・本町と中心市街地に場所を構え、常に街と触れ合いながら流行先端のファッションから刺激を受け、また刺激を与え続けてきました。新校舎に相応しい場所や建物を探していたところ、旧いちやま旅館の空きビルを校舎とする案が浮上しました。
旧いちやま旅館は、中央西土地区画整備事業の再開発により1997年に建てられた6階建ての鉄筋コンクリート造の建物です。
しかし、その後旅館が廃業し10年あまり空きビルとなっていました。松本パルコの筋向いにある、松本で一番の繁華街の空きビルはとても寂しげでした。
重厚な土蔵造り風の建物内部を見せて頂くと、再開発で取り壊された明治から続く「いちやま旅館」で使われていた材料が至る所に使われ、平成のビルでありながら古き松本の趣を感じさせる素敵な建物でした。
専門学校の校舎なので、建築基準法・消防法等に合致したリノベーションが必須ですが、その全てをクリアー出来そうな事が解り、松本衣デザイン専門学校はこのビルを取得し学校としてリノベーションする事になりました。
1階の旧ラウンジには、明治時代からの欅の板材が使われ、松本民芸家具調の木や漆喰やステンドグラスがふんだんに使われていました。この内装には殆ど手を付けず、エントランスや販売実習コーナーとして、街の人が自由に出入りできる、学生と街との交流の場に活用しました。
2階より上の階は、客室として使われていましたが、教室として使用する為に、全ての間仕切りを取り去り、天井のコンクリートをむき出しにしました。天井や壁のコンクリートはそのまま仕上げとして使ったり、壁に白いペンキを施したり、広く伸び伸びとした明るい教室に生まれ変わっています。
外観も基本的には手を加えず、そこにガラスの看板や漆喰の壁面に貼り付けたロゴタイプなどの、新しい感性を加える事で、先端のアパレルデザイン学校のアイデンティテイーを表現しています。
街や建築に限らず、服飾の分野においても、古くから大切にされてきた物に再び新しい息吹を吹き込むリメイクのデザイン手法は、これからの時代に不可欠な考えのひとつです。
街に溶け込んだ趣のあるビルと、若者のパワーのコラボレーションが互いの刺激になり、街に新たな魅力をつくりだす事を期待しています。